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大学での運動実践をメーンとしたスポーツ実技や健康について学ぶ講義の受講が運動習慣の形成に影響することが九州産業大学の研究者らによる調査で分かった。大学生の運動習慣の有無を入学時と2年生進級時で比較するデータを分析した結果、演習や講義を受けた学生は運動習慣を維持・獲得しやすいことが示されたという。さらに運動習慣は精神面での健康にも好影響を与えるとの結果も判明。海外での研究では精神面の健康は進路にも影響するとの結果もでており、たかが大学の体育の授業とあなどるわけにもいかないようだ。研究を行ったのは九州産業大学人間科学部スポーツ健康科学科の中尾武平講師ら。研究論文はデジタル関連分野を中心に幅広い領域の学術論文を掲載する電子ジャーナル「Journal of Digital Life」(ジャーナル・オブ・デジタル・ライフ)で公開している。
運動習慣は心血管疾患や糖尿病、高血圧、肥満などさまざまな慢性疾患を予防し、とくに若・青年期からの定期的な高レベルの身体活動は動脈硬化を防ぐことが報告されている。しかし定期的な運動を実践している若者は少数派だ。2019年の「国民健康・栄養調査」によると、30分以上の運動を週2回以上実施し、1年以上継続している20歳代の女性は12.9%。男性でも28.4%にすぎない。九産大の新入生に対する調査では、男子の約15%、女子の約40%は運動嫌いか、運動とは無縁の生活を続けているという実態も浮かび上がったという。
また、海外での研究では、精神面での健康状態が卒業や進路決定に影響を与えるとの結果や、体を動かすことは精神面での健康に寄与するとの結果も出ている。そこで中尾氏らは、若者に運動を習慣化させる方法を探るため、大学のスポーツ実技などが運動習慣に与える影響を検証。さらに身体面での健康に加え、精神面での健康との関連性についても調べた。
受講を機に学生の半数以上が運動再開
調査対象は、2017年度に、ある大学に入学した学部生のうち、入学時と2018年春に行った生活習慣調査に回答した2293人(男性1744人、女性549人)。このうち入学時に運動習慣があった学生は615人。以前は運動していたが入学時には運動習慣がなかった学生は1134人、運動は嫌いでしていないという学生が222人、嫌いではないが運動とは無縁という学生が252人だった。
また、入学時に運動習慣がなかった1608人のうち2年進学時に運動習慣がついた学生は592人だった。特に以前は運動していたという学生が運動を再開しているケースが多く、1134人中484人が2年進級時に運動習慣を身につけていた。
これらのデータを統計的に分析したところ、1年時のスポーツ実技の履修と健康関連の講義(健康学、心の健康、医学一般)の履修の両方について、2年進級時の運動習慣の維持・獲得との関連が有意に示された。さらに入学時の運動習慣別にグループ分けした分析では、以前は運動していたという学生のグループと、運動嫌いではないが運動とは無縁だというグループで、スポーツ実技履修と運動習慣の獲得との有意な関連がみられた。
中尾氏は「スポーツ実技演習の履修の影響があったとみられる学生では、運動の楽しさを体感し、運動習慣の獲得に結び付けることに成功していた可能性がある」との見方を示した。
また入学時に運動習慣があったグループでは、健康関連の講義の履修と運動習慣との関連が確認されており、中尾氏は「運動の効果を体系的な知識として伝えることが運動習慣の維持に結び付いている可能性がある」と指摘している。一方、スポーツ実技や講義の受講と運動習慣化の関係が示されなかった運動が嫌いな学生のグループに関しては、運動自体の魅力を伝えることが難しい可能性があるとして、「小さな成功体験をもたらすステップ」などを考える必要があると示唆している。
履修・非履修で「精神的健康度」に違い
また、スポーツ実技や健康関連の講義を履修した学生では、精神面での健康に関する自己評価が入学時より2年進級時の方が高い傾向があった。一方で、いずれの科目も履修しなかった学生では、2年進級時の精神面での健康度合を「やや悪い~非常に悪い」と自己評価する傾向がみられ、実技演習や講義の履修が精神面での健康に関わっている可能性が示された。
男女別の分析では、男性の方が運動習慣を持ちやすく、精神的な健康度も良好だとの結果が得られた。また、朝食をとる頻度が高いほど運動習慣を持つ割合が高く、精神面での健康も良好だった。この結果は、過去の研究とも一致する内容だ。2004年に71人の女子学生を対象に行った研究では、運動習慣のない学生では朝食を食べない割合が高いことが報告され、2017年の調査では男女ともに朝食をほぼ毎日食べている学生は運動習慣を持ちやすいという結果が出ている
中尾氏は、スポーツ実技の履修が運動の習慣化につながり、さらに精神面での健康の維持に寄与するという流れを期待して、実際に体を動かす授業の充実を図る必要があると強調。「今後は運動が嫌いな学生に対するより効果的なサポートや、性別を考慮したカリキュラムを作ることが必要だ」との認識を示している。
筆者:後藤恭子(産経デジタル)
※産経デジタルの記事を転載しています